初代・引田天功（1934～1979）

初代・引田 天功（ひきた てんこう）

奇術師

1934年（昭和9年）〜1979年（昭和54年）

1934年（昭和9年）、神奈川県横浜市に生まれる。日本大学高等学校を卒業後、日本大学工学部に進学。在学中の1953年（昭和28年）、松旭斎天洋の門下生となる。1957年（昭和32年）に大学を卒業後、NHK『魔法の小箱』にレギュラー出演を果たす。たちまち人気者となり、1960年（昭和35年）には松旭斎天洋門下から独立。「東京魔術団」を結成し、以後10年間にわたって団長を務めた。1963年（昭和38年）、後の脱出イリュージョンシリーズにつながる「水槽大脱出」を実施。1964年（昭和39年）、喜劇女優の小桜京子と結婚。一人娘を授かったが、後に離婚。1968年（昭和43年）から1975年（昭和50年）まで7回にわたって日本テレビの特番（主に木曜スペシャルの枠内）として放送された脱出イリュージョンは、「死のジェットコースター大脱出」、「死の火煙塔大脱出」「死の水道管大脱出」「油地獄水面炎上大脱出」といった従来のマジックからは考えられないほどのスケールの大きさで毎回高視聴率を記録し、日本中に脱出ブームを巻き起こした。脱出のアイデアは自身が尊敬する“脱出王”ハリー・フーディーニの脱出劇にヒントを得たものであり、大量の火薬をセッティングした大掛かりなパフォーマンスであった。しかし、それは本人にも相応の負担を強いる諸刃の剣とも呼べるものであり、脱出を成功させるための練習中に、瀕死になるアクシデントを経験している。また、脱出の際の爆薬の威力は凄まじく、音と熱と煙に相当悩まされ、無傷ではいられなかったとも自身の著書に記している。その人気から、本業以外では1969年（昭和44年）にフジテレビ系のテレビドラマ『フラワーアクション009ノ1』へのレギュラー出演、冠番組『天功どっきり60分!』（東京12チャンネル（現在のテレビ東京））も持っていた。また、1970年（昭和45年）に大阪で行われた日本万国博覧会では、EXPO'70電力館水上劇場にて会期中イリュージョンショーを行い、世界的にも知られる存在となった。テレビメディアと組んだ大規模な脱出イリュージョンの日本におけるパイオニアとして、日本のマジック界をリードする存在だったが、中年期より心筋梗塞など重度の心臓疾患に苦しんだ。晩年は催眠術パフォーマンスにも取り組むなど、身体に負担をかけず、かつ視覚的にインパクトのある芸も取り入れながら、一方では「ナイアガラ瀑布脱出」など、新たな脱出イリュージョンを構想していたともいわれていた。しかし、自身の病状の進行等の事情から果たせず、1977年（昭和52年）に心筋梗塞で休業。新たな大脱出の特番を計画していたが、結局この特番は前年5月に弟子にしたばかりで「手品もするアイドル歌手」として売り出し中だった朝風まりが代役を務めた。その後、闘病生活を続けていたが、1979年（昭和54年）12月31日に心臓病のため死去。享年45。その訃報は、出演予定だった1980年（昭和55年）元旦朝のフジテレビの特別番組『初詣爆笑ヒットパレード』（この番組内で引田の脱出イリュージョンが生放送されることになっていた）で、司会の三波伸介によってお茶の間に伝えられた。没後、誰が2代目を襲名するか弟子間で激しい争いが起こるも、同年12月15日に後援会の要請で朝風まりが二代目・引田天功を襲名。プリンセス・テンコーの別名で活躍するに至った。

テレビでの脱出奇術で大人気を博した初代・引田天功。極限状態からの脱出マジックを得意とし、「危険を買う男」「日本の脱出王」の異名を取った。特に大爆破や燃え上がる火柱など、従来の手品とは異なる演出で視聴者を圧倒し続けた。「死んではいけない、だけど生きてはいけない」をモットーとしていたが、心臓を悪くし、45歳で世を去った初代・引田天功。彼の墓は、神奈川県横浜市の大林寺にある。墓域には次女の嫁ぎ先の墓と天功の眠る「引田家之墓」があり、後ろに森繁久彌直筆による「神技 心魂を燃やして衆と遊ぶ 鬼才 その旅の短きを 哀しむ」の碑と天功の功績を讃えるモニュメントが建つ。戒名は「天融院功雲道顕居士」。