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干刈あがた(1943~1992)

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干刈 あがた(ひかり あがた)

作家
1943年(昭和17年)~1992年(平成4年)

1943年(昭和17年)、東京府西多摩郡青梅町勝沼(現在の青梅市東青梅)に生まれる。本名は、浅井(旧姓:柳) 和枝。幼い頃から本を読むのが好きで、家にあった法律書と法医学の本、策条痕の鑑識法などを読んでいた。1952年(昭和27年)、杉並区神戸町(現在の下井草)に移転し、1955年(昭和30年)には杉並区中瀬中学校へ入学。中学校時代は、探偵小説、短歌、社会主義の本などを乱読する一方、吉屋信子の少女小説にも夢中になった。1958年(昭和33年)、都立富士高等学校に入学。新聞班に入り、『富士新報』作りに専念した。また、高校新聞部連盟の呼びかけに応じて、安保闘争のデモや集会にも参加した。1962年(昭和37年)、早稲田大学第一政経学部新聞学科に入学。政治的傾向の強かった『早稲田大学新聞』とは異なる、学生の生活に密着した新聞をという意図のもとで作られた『早稲田キャンパス』の創刊に加わった。また、この頃には、サルトル、ボーヴォワールを始めとするフランス実存主義の文学や、ヘミングウェイ、フォークナーの小説など、海外の文学作品を読んでいた。しかし、父との約束で、大学の学費を自分で捻出しなければならず、映画館のもぎりや自動車会社のカード整理など、様々なアルバイトに追われて授業にはほとんど出席できず、翌年には経済的な理由で中退。その後、コピーライター養成講座「宣伝会議」に通った後、1964年(昭和39年)に大正製薬へコピーライターとして入社。ここで、広告宣伝部の美術デザイナーであった浅井潔と知り合う。1967年(昭和42年)、会社を退社し、フィリピン・台湾・香港をまわり、乗り継ぎで3日間沖縄に滞在した。月刊誌『若い女性』に、その旅行の体験記を本名で掲載。以降、不定期的に週刊誌や月刊誌のライターを引き受けた。同年、浅井潔と結婚。男の子2人に恵まれた。1975年(昭和50年)、島尾敏雄の呼び掛けでつくられた「奄美郷土研究会」の会員となる。この会で奄美・沖永良部の島唄に惹かれ、島唄を採集し始めた。1980年(昭和55年)、自作の短編と詩に、採集した沖永良部の島唄をまとめた『ふりむんコレクション』を浅井和枝の名で自費出版。1982年(昭和57年)には、『樹下の家族』で第1回「海燕」新人文学賞を受賞した。この作品から干刈あがたのペンネームを用いた(「干刈」は「光」の替え字。「あがた」は漢字を当てると「県」で、国に対する地方、中央に対する周辺の意味)。同年、浅井潔と離婚。復姓はしなかった。1983年(昭和58年)、『ウホッホ探検隊』が第90回芥川賞の候補となり、翌年も『ゆっくり東京女子マラソン』と『入江の宴』が第91回芥川賞の候補となった。また、『ゆっくり東京女子マラソン』と『プラネタリウム』がラジオドラマ化されるなど、一躍人気作家の仲間入りを果たした。1985年(昭和60年)、『ゆっくり東京女子マラソン』で芸術選奨新人賞を受賞。1986年(昭和61年)、『しずかにわたすこがねのゆびわ』で野間文芸新人賞を受賞。同年、『ホーム・パーティー』で3度目の芥川賞候補となる。以後も旺盛な作家活動を見せたが、1990年(平成2年)に胃癌が発覚。4月に東海大学医学部付属東京病院へ入院し、5月に胃を5分の4切除した。7月に退院したが、9月に再び入院。以降、入退院を繰り返すようになる。1992年(平成4年)5月、危篤状態に陥ったが回復。エッセイ『巨大な花束』を発表したが、9月6日に胃癌のため死去。享年49。


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自身の体験を基に、同時代性を鋭い視点で書き続けた作家・干刈あがた。その作品は、結婚、離婚、子育てなど、社会や家族との関わりについて衝突する同じ世代の女性をありのままに描き、読者の大きな共感を得た。作家としては、わずか10年あまりの活動であったが、3度も芥川賞候補になり、作品の多くがドラマ化された。山田詠美、江國香織、よしもとばななといった独特の世界観を持つ女性作家が今も現役で活躍しているのを見ると、その世界観の先端にいた干刈あがたが存命であったらば、どのような活躍を見せていたのだろうかと非常に気になる。生き急いだ作家・干刈あがたの墓は、東京都青梅市の宗建寺にある。楷書体で「柳」と書かれた干刈の実家の墓の左横に彼女の墓があり、「干刈あがた」と直筆が刻まれている。背面には墓誌もある。
by oku-taka | 2020-01-19 13:53 | 文学者 | Comments(0)