2017年 10月 28日
森田芳光(1950~2011)
森田 芳光(もりた よしみつ)
映画監督
1950年(昭和25年)~2011年(平成23年)
1950年(昭和25年)、神奈川県茅ヶ崎市に生まれる。幼少期は東京都渋谷区円山町で育ち、祖母に連れられ寄席に通った。小学校時代は東宝芸能学校に所属し、子役としてテレビ番組や舞台で活躍。同期に鷲尾真知子がおり、当時人気子役だった江木俊夫や中山千夏とも交流があった。その後、日本大学櫻丘高等学校に進学。在学中は新聞部に在籍し、映画評を担当することになって見たデヴィッド・リーン監督の『ドクトル・ジバゴ』に感動し、映画の魅力に開眼。新宿文化やアメリカンセンターなどに通い、当時隆盛だった実験映画の洗礼を受ける。その後、日本大学芸術学部放送学科に進学し、落語研究会に所属する傍ら自主映画製作を開始する。大学卒業後は駅前の雑居ビルにある名画座でアルバイトしながら、大宅壮一マスコミ塾に入る。その傍らで映画を撮り続け、1978年(昭和53年)には8ミリフィルムで自主制作した「ライブイン茅ヶ崎」が第2回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)に入賞。1981年(昭和56年)、若い落語家を主人公とした『の・ようなもの』を実家を抵当に入れた借金で製作してプロデビュー。本作で第3回ヨコハマ映画祭作品賞と新人監督賞を受賞し、一部から高評価を得る。その後、日活ロマンポルノ作品の製作を経て、1983年(昭和58年)松田優作主演の『家族ゲーム』を発表。家庭をシニカルかつ暴力的に描いたブラックコメディーは、家族全員が長い食卓に画面に向かって横一列に並んで座る奇妙な食事場面が話題となり、キネマ旬報ベストテン1位など同年の主要映画賞を多く受賞。一部の高評価にとどまっていた前作から大きく飛躍して、新世代の鬼才として広く注目を集める。1984年(昭和59年)、薬師丸ひろ子主演の『メイン・テーマ』が大ヒット。1985年(昭和60年)、再び松田優作を主演に迎え、夏目漱石の『それから』を映画化。第9回日本アカデミー賞優秀作品賞をはじめとするその年の主要映画賞を独占し、それまでの異色作路線とは異なった格調高い文芸大作で幅の広さを示し、映画界での地位を確立させた。しかし、1986年(昭和61年)にとんねるず主演で広告代理店を描いた『そろばんずく』、1989年(平成元年)に吉本ばなな原作で大ベストセラーとなった『キッチン』を映画化したが、いずれも興行的に大敗。映画づくりに迷いを感じ、1992年(平成4年)に発表した『未来の想い出 Last Christmas』以降は映画制作本数を控え、監督ではなくシナリオ執筆や競馬エッセイの連載などを優先に活動。この間に発表した映画「バカヤロー!」シリーズ(製作総指揮)、『免許がない!』(脚本)はスマッシュヒットとなった。1996年(平成8年)、数年の沈黙を破り、パソコン通信による男女の出会いを描いた『(ハル)』を発表。興行的には不入りだったが、第21回報知映画賞最優秀監督賞、第18回ヨコハマ映画祭脚本賞、第20回日本アカデミー賞優秀脚本賞に輝くなどして高い評価を得る。1997年(平成9年)、渡辺淳一原作の『失楽園』を、役所広司、黒木瞳の主演で映画化。人生に疲れた中年男女が不倫の果てに心中するというストーリーは、観客動員数が200万人を超える大ヒットとなり、「失楽園」という言葉はこの年の流行語ともなった。同作で第21回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した。1999年(平成11年)、『39 刑法第三十九条』、『黒い家』と、自身のキャリアにおいて初のサスペンスを発表。2002年(平成14年)には、宮部みゆきの大ベストセラー小説を原作とした中居正広主演のミステリー『模倣犯』を発表し、興行的にはヒットしたが全編に渡って独自のメディア論を展開したため、純粋なサスペンスを期待した原作者及び原作ファンの怒りを買ってしまった。2003年(平成15年)、向田邦子脚本のテレビドラマ『阿修羅のごとく』を映画としてリメイクし、第46回ブルーリボン賞監督賞、第27回日本アカデミー賞優秀作品賞および最優秀監督賞を受賞。その後も、北海道の田舎の漁師の家に嫁いだ女が夫の弟との密通の果てに自殺するという破滅的な恋愛を描いた伊東美咲主演の『海猫』、黒澤明監督のオリジナル版を同じシナリオを使ってリメイクした『椿三十郎』等、意欲作を次々に発表。2011年(平成23年)、瑛太と松山ケンイチ主演の『僕達急行 A列車で行こう』撮影中に体調を崩し、入退院を繰り返すようになる。12月13日に東京都内の病院へ再入院したが、腎臓にも異常が見つかり、12月20日、C型肝炎による急性肝不全で死去。享年61。
1980年代中頃の邦画衰退期に突如として現れた森田芳光。鋭い人間観察力と斬新な映像表現で話題作を次々と世に送り、相米慎二と共に日本映画の旗手として一躍時の人となった。『家族ゲーム』『間宮兄弟』は今観ても面白いし名作であることに揺らぎはないのだが、『メイン・テーマ』『模倣犯』等の内容が意味不明で正直つまらない作品も非常に多い。この人ほど名作と迷作の差が大きい映画監督はいないと個人的には思う。いつも口を歪ませて映画への愛を語っていた森田芳光の墓は、東京都文京区の善仁寺にある。墓には「森田家先祖代々之墓」とあり、側面に墓誌が刻まれている。戒名は「常然院釋芳映」